新共同訳聖書の前身となった「新約聖書 共同訳」は、日本で初めてカトリック・プロテスタントの両派が共同で翻訳を行い、出版された聖書です。
1964年に開催された世界教会指導者会議における、「あらゆる教会との協力によって共通の聖書が準備されることを要望する」ドリーベルゲン宣言をきっかけに、共同聖書翻訳のための「標準原則」が成立しました。
その後、日本では1970年に共同訳聖書可能性検討委員会が組織され、1978年に共同訳の新約聖書が出版されました。ところが、その人名の表記や用語に対し1,000件を越える批判や助言が集まり、それを受けて更なる改訳が行われました。
キリスト教に触れたことのない人にも分かりやすい翻訳をと、必要に応じて言葉の意味までも訳し出す「動的等価」という翻訳原則をとっていましたが、この原則を大きく修正し、さらに9年の歳月を要して完成したのが「新共同訳聖書」です。
1987年9月に出版された新共同訳聖書には、旧約聖書、および従来のプロテスタント旧約聖書には含まれなかった外典(アポクリファ)を「旧約聖書続編」も訳されました。
以前に出版された口語訳聖書に比べ格段に読みやすく、入門者にとってもわかりやすいことから、現在は日本のほとんどのキリスト教主義学校で採用され、8割近くのキリスト教会において礼拝やミサで用いられているなど、幅広い人々から愛される聖書となっています。
口語訳聖書と比べて
新共同訳聖書は、聖書原典に忠実な翻訳を第一としながらも「義務教育を終えた人が読むことができ、耳で聞くだけで分かる聖書」を目指して、文体や語句の使用に変更や工夫が加えられています。難しい専門用語や「される、られる」などの敬語も省かれ、誰にも読みやすい文体に改められました。
また、以前に発行された口語訳聖書とは異なる翻訳が充てられている部分がいくつか見られます。例えば、マタイによる福音書21章28〜31節では、ぶどう園に行ったのは弟とする口語訳に対し、新共同訳では兄と記載されています。これは、それぞれ別の底本を元に翻訳を行ったことが大きな理由です。
新約聖書について言えば、共同訳は当時最新の学術成果とされた『ギリシャ語新約聖書修正第三版』(聖書協会世界連盟1983年)が採用されたのに対し、口語訳はそれ以前の版に基づいた翻訳となっています。
ヘブライ語聖書も口語訳のそれから進んだ、『ビブリア・ヘブライカ・シュトットガルテンシア』(ドイツ聖書協会1977年)が底本とされました。
聖書の翻訳が幾度となく行われることにより、原典の内容が変更されることは決してありません。口語訳が出版された以降も、新しい写本の研究や聖書学の進歩により、それまで解釈が難しかった部分がより原意に近づき、正確に把握されることがあります。
併せて、私達が用いる日本語も絶えず変化していることから、聖書は時代が進むのに応じて改訳される必要があるのです。
新共同訳聖書の構成
新共同訳聖書の出版により、カトリック・プロテスタント両教会の信徒が同じ聖書を用いて共に祈ることができるようになりました。
口語訳聖書は、プロテスタントの聖書として旧約39文書、新約27文書の合計66書で構成されていましたが、新共同訳ではこれに加え、カトリック教会らが第二正典などとしていた13書を「旧約聖書続編」として収録した版も用意しています。
続編部分の底本は、『ギリシア語旧約聖書』(ゲッティンゲン研究所1983年)とエズラ記(ラテン語)の部分は『ウルガタ版聖書』(ドイツ聖書協会1975年)です。
また、新共同訳聖書では本文中、段落や内容のまとまりごとに、理解を助ける「小見出し」が付けられるようになり、巻末には度量衡や難しい用語の解説や口語訳より多くの地図なども付録として加えられました。これらは聖書の解釈を固定化させてしまう、読む人に先入観を与えてしまうなどの理由で反対する意見もありましたが、はじめて聖書を手にしようとしている人にも非常に読みやすい構成となっていると言えるでしょう。